鬼滅の刃の大ヒットから考える少年漫画への大きな懸念
鬼滅の刃が大ヒット。
『ガンダム』『エヴァンゲリオン』『君の名は。』に類する社会現象といってもいいだろうというくらいのヒットです。
※このブログでは社会現象をターゲット層(少年少女)以外の社会人やお年寄り、小さな子供にも名前や見た目くらいは知られている。そしてそのスパンが短い間で起きた。という定義をします。
テレビで紹介され始めた時期から見ましたが、私の個人的見解をいうと「つまらないというわけではない」という感想です。
それでもこの大ヒット。
ヒットの要因調べてみると、ジャンプを含めた『少年漫画』という文化の危機ではないかと思い始めました。
このブログではヒットの要因をキャラクターや、物語の良さなどから以外の観点から見てみようと思います。
ヒットの要因を軽くおさらい
なぜヒット作なのか?これを解説したものはテレビなどのマスメディアとブログなどで変わります。
マスメディアではキャラクターの深さ、家族愛、ストーリーのすばらしさを語ります。
アニメ系のブログではufotableによるアニメが火付け役だ。SNSでのヒットが一番の要因である。何故ここまで人気なのか分からない。という話題が目立っている気がします。
その中でも定説になっているのは、
目立たない人気だった
↓
アニメのクオリティが良かった
↓
それまで売れていなかった原作が一度に売れた
↓
コミック売り上げが急激に上がり話題に
↓
そこから改めてアニメの視聴者数が増えSNSでも拡散
↓
大ヒット
という流れがあったことが要因の一つです。
もちろんここまでのヒットに至るためには原作のストーリーの良さ。キャラクターの深み。王道の展開。アニメのクオリティ。アニメの現代にあったスピード感。様々な方がブログで話をしていたこの作品の素晴らしさは数多くありますがそれも全てが欠かすことのできない前提条件でしょう。
視聴者層の広さ
ヒットの要因の大きな点の一つであるアニメの話で、気になる点があります。それは深夜枠のアニメということです。
これまで少年漫画の王道であるジャンプ漫画のアニメ化では18時などのアニメプライムタイムのものが人気な印象です。しかし鬼滅の刃では深夜枠です。暗い雰囲気、グロもある描写など家族団らんで食事を囲んで見るものではないということから深夜の放送は当然の配慮です。
そして深夜アニメになることからジャンプ卒業世代が「ジャンプ原作でしょ、見なくてもいいや」というマイナスインセンティブを排除したことが良かったのかもしれません。
もう一点は女性人気です。
このリンクはアニメイトタイムズのアンケートです。ここからも分かる女性の投票が多いことが分かります。
投票するということはどういうことでしょうか。
アニメイトタイムズを見ている全体の母数もありますが、是非投票をしたいという気持ちの盛り上がりがないと投票するという行動にまでは至りません。
つまり、投票が多いということは、それだけ鬼滅の刃が心に刺さったことを意味するのだと思います。
ここからは私の個人的見解ですが、男性は状況の変化にワクワクし、女性は関係性の変化に心を躍らせることが多いのだと考えています。
状況の変化とは新たな敵の出現、新しい問題の出現と解決法の発見(新技)、本人の成長による敵とのパワーバランスの変化などです。
関係性の変化とはそのままで、人と人の関わり方、上司部下など社会的ステータスの変化、友達から彼氏彼女への変化、人間的成長の変化などがあげられます。
鬼滅の刃では多くの回想シーンによる人間性の受け取り側の変化、鬼狩りと鬼である生き残った家族の関係性。などのキャラクター性が刺さったのかもしれません。
少年ジャンプから少年人気、アニメで大人からの人気、ストーリーやキャラクターから女性からの人気。全体のパイが広がれば好きな人が出てくる人もそれだけ増えます。
様々な層からの人気を得ることに耐えられる作品であることがヒットの要因の一つでしょう。
同じようなヒット作を出すための方法
さて、こういった作品を生み出すためにはどのような作品つくりをすればいいのか。
鬼滅の刃ではアニメとコミックの売り上げのタイミングなどもあり、運の要素が絡むのでそこは置いておいて、純粋に物語の内容のみで考えてみます。
世界観を小出しにして次々に新しい状況を出現させていく、女性人気のための深いキャラクター性を演出するしていく。男性人気女性人気ともに共通している要因である『登場人物の成長』。
これは「変化前」があって「変化後」がある、つまりある程度の物語の長さが必要です。
ここまで単純な話ではありませんが、最低条件としては必要ではないかと思います。
では、そんな作品をたくさん作りましょう。いえ、出来ません。特にジャンプは紙面が限られているので人気がないと打ち切られます。
鬼滅の刃は何故生き残れたのでしょうか。
タイミングと枯渇感
鬼滅の刃は特に目新しいキャッチさやとんでもないアイデアは無いように思います。これまでジャンプでそこそこヒットしているようなものはまず『一つの大きな嘘』アイキャッチにして、それを肉付けしていって物語として展開していくものが多かったと思います。
『トリコ』では美食ハンターや強いものほど美味しいという設定、『シャーマンキング』では霊の力を借りて問題解決するシャーマンという存在。など、面白そうな設定だなと思わせることによって連載初期の人気を保ち成長などを描くことで人気を得てきました。
鬼滅の刃ではどうでしょうか。
鬼によって家族を殺され妹を元に戻すダークファンタジー。
何度もこすられ使い古されたちょっとした小ネタでも出てくる設定を主軸としています。
そもそもジャンプとしては珍しいタイプの暗めのストーリー。人気がなければそのまま打ち切られても不思議ではありません。
途中で善逸と伊之助の登場で面白さが巻き返されますが、それでも初めのころに順位が低迷していたのは事実です。
もちろんそこまでの画面作りの上手さや迫力、ストーリーの上手さもあります。
しかし、それは2016年から連載していたので残れたということもあるかと思います。
下記は連作開始時のジャンプの作品一覧です。
鬼滅の刃
暗殺教室
ONE PIECE
ゆらぎ荘の幽奈さん
ハイキュー!!
ブラッククローバー
左門くんはサモナー
火ノ丸相撲
僕のヒーローアカデミア
ニセコイ
背すじをピン!と〜鹿高競技ダンス部へようこそ〜
トリコ
ものの歩
斉木楠雄のΨ難
食戟のソーマ
こちら葛飾区亀有公園前派出所
銀魂
ワールドトリガー
BLEACH
磯部磯兵衛物語〜浮世はつらいよ〜
人気作も多いですが、その後終了した作品も多くその後の新連載もそれほど巨大になったタイトルはパッと見ありません。
人気作がどんどん減っていき新連載から後を追いかけられない。次のヒットの枯渇感から生き残れたとも言えます。
話は少しズレますが枯渇感でいえばアニメのヒットでも同じようなことが言えると思います。目立ったアニメがない中でそれほど注目されていなかった漫画原作がufotableのハイクオリティーさで一躍脚光を浴びたという形かと思います。コロナの巣ごもり需要も要因の一つかもしれません。
懸念と期待と
これまでの少年誌、特にジャンプは変わったキャラクターや奇想天外な設定など、言ってみれば「出落ち」のようなものになりかねないアイデアで連載初期の人気を獲得してきました。
これはアイデアが出尽くしてきて少年漫画というジャンルが飽きられてきた予兆なのかもしれないと考えてしまいます。
もうこのまま「よくこんな設定を思いついたな!」という漫画には出会えないのでしょうか。
そう考えると非常に残念です。
鬼滅の刃ではこれまでになかったような珍しい突出した設定などはありません。どこかで聞いたことのあるようなものをうまく使って丁寧に仕上げています。
また、仮に初期の人気のみを参考にしてすぐに打ち切るという方式を緩和させるのなら、ある程度流れが出来るまで打ち切らないというのならば、打ち切りに怯えて無理やりな展開を作らず、しっかりした作品が現れるのかもしれません。
しかし、紙面という特性上ウェブで公開される有象無象の作品群には太刀打ちできないのではとも考えます。
ジャンプ+などを使って野球の一軍、二軍のように成長枠から紙面へ復帰というのもアリかもしれません。
現在ジャンプを含め連載少年誌の売り上げ部数は落ちています。数々の幸運から成り立っている鬼滅の刃の異例な大ヒットですが、少年漫画という文化の「灯滅せんとして光を増す」にならないことを祈っています。